一般的に、遺産相続時に課せられる相続税を減らす方法として、賃貸アパートの購入が知られています。これは現金と比較した際、不動産のほうが相続税上の評価額が低くなるからです。
相続財産が多額になればなるほど、相続税率も高くなります。さまざまな方法での相続税対策を知っておくと、有利になるでしょう。ここでは不動産による節税方法を紹介していきます。
不動産の活用が相続税対策として効果的である5つの理由
相続税を減らすためには、相続財産(課税財産)の評価総額を減らす必要があります。現金をそのまま相続するよりも、不動産に換えたほうが相続財産の評価総額を下げられます。ここではその理由を5つ紹介していきましょう。
理由1 不動産にすることで土地の評価額が20%~30%程度下げられる
不動産を相続した場合、実際に売買されたときの価格(実勢価格)とは異なる基準で算出された価格が、相続税を決める際の基準になります。土地の評価額は国税庁が決定している価格(路線価)が基準になっています。路線価は時価の70%~80%程度です。つまり、実際に支払った土地価格より20%~30%程度下がった金額が、土地の評価額とされるのです。
理由2 建物の評価額が最大で50%程度下がる
建物の評価額には固定資産評価額を利用しています。これにより建物の評価額が最大で50%下がることが期待できるのです。実際に支出した建築費の半分が評価額とされる傾向にあります。
理由3 不動産(アパート)を第三者へ賃貸することによって、節税効果が期待できる
ここまでで説明した土地と建物の評価基準に加えて、アパートやマンションなど、不動産が第三者へ貸し出す物件である場合、評価額がさらに30%減少します。借地権割合という減額割合が適用されるためです。
したがって、ここまでの相続税評価額における参考基準をまとめると以下の通りとなります。
土地
自宅などで利用する場合の評価額……時価の70%~80%
賃貸で利用する場合の評価額……時価の50%~55%
建物
自宅などで利用する場合の評価額……時価の50%
賃貸で利用する場合の評価額……時価の35%
理由4 小規模宅地の特例を適用できる
小規模宅地の特例には、宅地の種類と面積に応じて評価額の減額率が定められています。評価額が低くなる賃貸アパートでも、200平方メートルを上限に土地の評価額が50%減少します。
こちらもまとめておきましょう。
- ・居住用宅地……上限面積330平方メートル、減額率80%
- ・事業用宅地……上限面積400平方メートル、減額率80%
- ・貸付事業用宅地……上限面積200平方メートル、減額率50%
理由5 親の名義(親の現金)で建物を建てられる
これまで不動産を利用した相続税対策を紹介してきましたが、絶対に押さえておかなければならない点があります。土地の購入や建築の際には、親(被相続人)の現金を利用して、親名義で不動産を作らなければならないという点です。
今まで説明した相続税対策は、あくまで被相続人の財産を現金から不動産に換えて相続することが前提になっています。子ども名義で建てた場合は、生前贈与に該当し、贈与税が発生してしまいます。
親名義にすることで贈与税の発生を抑え、支出を減らすことができるのです。
不動産を活用した場合の相続税評価額シュミレーション比較
ここまで不動産の活用が相続税対策になることを説明してきましたが、節税効果をよりイメージしやすくするために、シュミレーション比較をしてみましょう。(今回は相続税の課税対象になる課税財産額を基準にした比較です。)
まず現金1億円を相続したと仮定します。そして、そのうちの6000万円で建物を、4000万円で土地を購入したとします。それらが自宅用不動産である場合と、賃貸用不動産である場合とで比較し、それぞれの相続税評価額を算出してみましょう。
現金を自宅用不動産に換えて相続した場合
6000万円で購入した建物の評価額……固定資産評価額によって50%減少します。
6000万円×0.5=3000万円
4000万円で購入した土地の評価額……路線価によって80%減少し、さらに小規模宅地の特例によってそこから20%減少します。
4000万円×0.8×0.2=640万円
建物と土地を合計すると、3640万円の相続税評価額となります。
現金を賃貸用不動産に換えて相続した場合
今回は比較を分かりやすくするために、賃貸アパートの入居率(賃貸割合)を100%に設定します。満室でない場合は入居率に応じて評価額の減少率に変動があるため注意しましょう。
6000万円で購入した建物の評価額……固定資産評価額によって50%減少します。さらに借地権割によってそこから70%減少します。
6000万円×0.5×0.7=2100万円
4000万円で購入した土地の評価額…..路線価によって80%減少、小規模宅地の特例によってそこから50%減少、そして借地権割合によって、さらにそこから70%減少します。
4000万円×0.8×0.5×0.7=1120万円
建物と土地を合計すると、3220万円の相続税評価額となります。
現金を自宅用不動産に換えて相続した場合と比べて、賃貸用不動産に換えて相続した場合のほうが相続税を下げられるのです。
相続税を減らす生前の不動産対策
今まで不動産を活用した相続税対策をいくつか紹介してきましたが、ここで実際に生前にできる節税対策をまとめてみましょう。
まずは現金を建物に換えて、半分以下の評価にしましょう。
前述したように、相続になったときの建物評価は、実際にかかった建築費用ではなく、固定資産評価額で評価されます。固定資産評価額とは、市町村の税務課(東京23区では都税事務所)にある固定資産課税台帳に登録された、土地や建物の評価額のことをいいます。この評価額は、国が定めた「固定資産評価基準」に基づいて、市町村が決定しているものです。
土地は国税庁が定めた路線価に基づいて評価されています。路線価のない地域では倍率方式により評価されます。
一般的に、土地の評価額は公示価格の70%、建物の評価額は建築費の50%~70%になるとされています。しかし、実際にはこの割合以下になることが多いようです。
現金をそのまま持っているよりは、それを不動産に換えてしまったほうが、相続税は下がるということです。
また、その建物を賃貸住宅にすると、さらに評価を下げることができます。
貸家等の借家人が存在する場合の家屋の評価額は、賃借人に一定の権利があると考えられ、借地権割合の30%分を引くことができるようになります。そのため、固定資産税評価額の70%として評価されるのです。
さらにその建物を親名義(親の現金)で建てることによって節税になります。
二世帯住宅でなどでは、ローンは子どものほうが組みやすいという理由から、親の土地に子ども名義で建物を建ててしまうことが多いようです。しかし、それでは節税になりません。親の現金を使うことに抵抗がある方もいらっしゃるかもしれませんが、節税をしたいのなら親名義にしましょう。
そして建物の評価の仕方が固定資産税評価であることを活かして、借入しなくても節税効果を生むこともできます。
自宅の場合でも、現金を建物に換えることで固定資産評価になり、資産評価を半分以下に圧縮できます。賃貸住宅の場合、借入が定番となっていますが、現金で支払うと固定資産評価のさらに70%となるのです。結果的には、建築代金の40%程度になります。返済不要の節税対策ができるため、非常におすすめです。