印紙税は、法律で定められたお金の取引に関わる文書に対して課税されます。不動産の売却時には、複数の契約が交わされることが多く、印紙税はその都度、納税する必要が出てきます。課税される文書や課税額は、印紙税法に詳細が規定されています。不動産売却の契約時に必要となる印紙税について知っておきたいことをまとめてみました。
印紙税とは
印紙税法は、昭和42年の大蔵省省令に基づいて施行され、平成29年6月に改正されました。印紙税法に定められた、金銭取引に関わる書類には、収入印紙を購入して貼り付け、納税します。この行為で、金銭に関わる取引を記載した文書を課税済みとし、取引を公的に認められたものとすることができます。
印紙税を課税される文書
印紙税の納付が必要となる文書は、印紙税法に定められている第1号から第20号文書にあたる課税文書です。不動産の譲渡や貸借に関する文書は、第1号文書に含まれています。第1号文書に規定されているのは、以下のような文書です。
①「不動産、鉱業権、無体財産権、船舶若しくは航空機又は営業の譲渡に関する契約書」
ここにある無体財産権には、著作権や商標権、特許権などが含まれます。
②「地上権又は土地の賃借権の設定又は譲渡に関する契約書」
土地の賃貸借契約書や賃料変更契約書などです。
③「消費貸借に関する契約書」
消費者金融などとの金銭借用証書や金銭消費貸借契約書などです。
④「運送に関する契約書」
ここに含まれるのは、運送契約書などで、乗車券や航空券などは含まれません。
第2号文書に規定されているのは、「請負に関する契約書」、第3号は「約束手形又は為替手形」、第4号は株券や投資信託などの受益証券が含まれます。第20号まで規定があり、具体的には、売買や譲渡の契約書や株券、保険証券、領収書など多岐に渡ります。
印紙税の納付方法
印紙税は、課税される文書を作成した人が、収入印紙を課税文書に貼り付けることで支払います。取引によって納付額が規定されているので、相当額の収入印紙を購入して、文書に貼付します。添付後は、文書と収入印紙の彩文にかかるように、文書の作成者か代理人が署名又は印章をおして、消印する必要があります。消印することで、収入印紙の使いまわしを防げ、印紙税の納付がされている証明となります。
支払うべき印紙税の相当額を前もって国に納付しておいて、印紙を貼り付ける代わりに税印押なつをしてもらうこともできます。この方法をとるには、全国に118か所ある税印押なつ機が設置されている税務署の署長に、税印押なつを請求します。不動産の売却事例には当たらないかもしれませんが、領収書などで毎月同じ内容の文書が作成されるといった場合には、所在地の管轄税務署長の承認を受けて、印紙税を納付して、収入印紙を貼らずに書式表示することもできます。
収入印紙
収入印紙は、財務省が発行しています。額面は、1円~10万円まで、全部で31種類あります。印紙税額は、取引によって異なっています。
収入印紙は、法務局の登記所や郵便局だけでなく、収入印紙の販売書として指定を受けた店で販売されています。コンビニでも販売している所があります。ただ、よく使われる額面200円のものを置いているだけのところも多いため、高額な収入印紙が必要となる文書の場合は、郵便局や登記所で用意しておく方が良いかもしれません。
不動産売却に関わる印紙税
印紙税法に規定されているように、土地の賃貸借契約書や賃料変更契約書、不動産の売買契約書や不動産交換契約書、不動産売渡証書などが不動産関係などは課税文書に当たり、印紙税を納付しなくてはなりません。
印紙税額は?
印紙税額は、文書に記載された契約金額に応じて、変わってきます。契約書それぞれに印紙を添付する必要があります。1回の売買取引で、売り手と買い手、仲介者それぞれが契約書を手元に置くとすると、3通必要になり、契約金額に応じた印紙税額×3がその取引で必要になる納付額になります。
平成9年4月1日~平成32年(2020年)3月31日間に作成された不動産の売却や譲渡に関わる契約については、契約金額が10万円以上の場合、税率の軽減があります。この軽減措置は、平成30年3月31日までとされていましたが、平成32年までに延長されています。
契約書に記載された金額 | 通常の規定額 | 軽減措置に当たる場合 |
1万円未満 | 非課税 | 非課税 |
1万円以上10万円未満 | 200円 | 200円 |
10万円超50万円以下 | 400円 | 200円 |
50万円超100万円以下 | 1千円 | 500円 |
100万円超500万円以下 | 2千円 | 1000円 |
500万円超1000万円以下 | 1万円 | 5000円 |
1000万円超5000万円以下 | 2万円 | 1万円 |
5000万円超1億円以下 | 6万円 | 3万円 |
1億円超5億円以下 | 10万円 | 6万円 |
5億円超10億円以下 | 20万円 | 16万円 |
10億円超50億円以下 | 40万円 | 32万円 |
50億円超 | 60万円 | 48万円 |
契約金額の記載なし | 200円 | 200円 |
軽減措置を適用した印紙税額
軽減措置を受けられるのは、不動産の譲渡に関わる契約と、その契約に併記された契約書です。
例えば、契約金額が6000万円の建物の譲渡と、2000万円の定期着地権の譲渡が併記された家の売却の契約書の場合、契約書に記載された契約金額は、8000万円となります。この場合の印紙税額は、3万円となります。
収入印紙を貼り間違えた!
収入印紙を貼り間違えてしまった場合は、管轄の税務署に原本を持って行き、過誤納の確認を受けて、還付を受けられます。収入印紙の額面が必要以上であったり、印紙税の納付が必要ない文書に貼ってしまったりした場合には、還付を申請しましょう。
収入印紙は、1枚である必要はありません。実際に支払う額よりも少ない金額の印紙を貼った場合には、必要額になるよう何枚かの収入印紙を貼り付けても構いません。
収入印紙を貼らなかったら?
印紙税法の第20条には、過怠税の規定があります。金額が不足していたり、貼るべき収入印紙を貼っていなかったりした場合、その時点では発覚しないかもしれません。ただし、調査などで発覚すると、脱税と同様、過怠税が課されます。過怠税は、支払うべき印紙税額の2倍の額で、本来支払うべきだった印紙税額と合わせて、3倍の印紙税を支払わなくてはなりません。ただ、自分で気づいて自己申告した場合には、本来支払うべき印紙税額の10%が過怠税となり、1.1倍の印紙税を支払うことになります。
収入印紙を故意に貼らなかったと認識されると、印紙税法第22条に従って、「1年以下の懲役もしくは20万円以下の罰金」に処せられてしまうかもしれないので注意が必要です。
売却者は支払わなくてもよい?
不動産の売却契約書は、本契約書を1通だけ作成して、買い手が保有し、売り手側はコピーを持っておくだけですむかもしれません。登記や税務処理などのために買い手側は、契約書の本体を保持しておいた方が良いですが、売却者は売却後、売ってしまったものに関する事務手続きは必要なくなるため、コピーを持っておけばすみます。その際には、不動産売買契約書の中に、原本と控を作成し、原本は買主が、控は売り手が保有する旨の記載をしておく必要があります。また、控に、「原本に同じ」といった記載をしたり、新たに署名や押印をしてしまうと、課税文書になってしまうため、注意が必要です。
不動産の売却契約書の原本は、買い手の方が保有するため、売却者ではなく、買い手が印紙税を負担します。