マイホームの建築や事業を興すために住宅ローンを使って土地を購入したものの、途中で返済が困難になったらどうすればいいのでしょう。その場合は購入した土地を売却してそのお金を返済に充てるという手段を考えることが可能です。ここでは、不動産の売却方法や土地の任意売却、そして売却に影響する抵当権について解説します。賢く売却し、少しでも残債返済の負担を減らしましょう。
任意売却と競売
会社の倒産や病気、怪我等で収入を得ることができなくなり、住宅ローンの返済が困難になることがあります。その場合は不動産を売却し、その売却金をローンの返済に充てることで残債を返済することが可能です。
不動産の売却方法には大きく、任意売却と競売の2通りがあります。
任意売却
売却後もローンの残債が残る不動産を、債権者の合意を得て売却する方法です。ローンの残債が残ること以外は通常の不動産売却と変わりません。
競売
ローンの滞納や遅延により債務者の返済権が失われると、債権者は残債の一括返金を要求します。一括返済ができない場合に担保である不動産を債権者が強制的に売却するのが競売です。
任意売却と競売の違い
任意売却と競売には次のような違いがあります。
- ・売却価格
任意売却がほぼ市場価格と同等となるのに対し、競売は市場価格の5割~6割前後になります。 - ・プライバシーの保持
任意売却では物件や所有者名などは公開されないのに対し、競売では裁判所やインターネット上に公開されてしまいます。 - ・引渡し日
任意売却では引き渡し日は購入者と債権者の協議のもと決めることができますが、競売では引き渡し日を選ぶことはできません。 - ・引っ越し費用
任意売却では引っ越し費用として、売却金の中から最大30万円の補助を受けることができるのに対し、競売では全額自己負担となります。 - ・ローン残債の返済
任意売却では分割返済が可能ですが、競売では一括返済を求められます。競売に比べて任意売却の方が、債務者にとってメリットの大きい売却方法ということができるでしょう。ローンの返済が困難になる見通しがある場合には、返済権を喪失する前に速やかに任意売却の手続きに進むことが得策です。
任意売却は家やマンション、土地もできます
不動産には家やマンションなどの建物だけでなく土地も含まれます。もちろん、任意売却は土地だけであっても可能です。土地の場合も家やマンションと同様、任意売却の方が高値で取引されるため競売に比べてメリットが大きくなり、抵当権の付いたままの土地であっても任意売却であれば売却することができます。
抵当権とは?
抵当権とは、住宅ローンの借り入れ時に、債権者である金融機関が購入対象の不動産に対して設定する権利になります。住宅ローンは金額が大きく、そのため返済期間も10年、20年と長期にわたることが一般的です。そうなると、返済が遅れたり途中で返済ができなくなったりと債権者にとってはリスクも大きくなります。そのリスクを軽減するため、債権者は購入対象の不動産を担保に設定しなければなりません。これが抵当権です。
抵当権を設定することで、債権者は債務者が住宅ローンの返済不能に陥った際に不動産を差し押さえることが可能です。返済が遅れれば住宅が差し押さえられ、競売にかけられて強制的に売却されてしまうため債務者にとっては大きなプレッシャーとなります。これにより、ローンの返済遅延のリスクを防ぐことができるのです。また不動産を売却した際の売却金をローンの残債に充てることができるため、債務の回収ができなくなるといったリスクも軽減することができます。
抵当権の設定と抹消
抵当権は住宅ローン契約時に設定されます。抵当権の設定は登記簿に登録することで行われており、登録は司法書士が代行するのが一般的です。登記の際には登記にかかる登録免許税と司法書士への報酬が発生します。
また住宅ローンが完済すれば抵当権は消失するでしょう。住宅ローン完済時に債権者である金融機関から抹消手続きに必要な書類が送られてくるので、必要事項を記載し法務局で手続きを行います。手続きは司法書士に依頼することも可能です。
抵当権を抹消しないとどうなる?
抵当権の設定は通常司法書士が代行するため、債権者側が意識することはあまりないでしょう。しかし抹消の手続きは自身で行う必要があります。ですが何かと忙しい毎日の中、ついつい抹消の手続きを忘れてしまうこともあるでしょう。抵当権自体は消滅しているため、抹消手続きをしなくても何も問題ないと考える人もいるかもしれません。しかし抹消手続きをしないと様々な不具合が発生します。
-
- ・ローンの審査に通りにくくなる
ローンを契約する際は金融機関で信用情報などの審査が行われます。そこで抵当権付きの不動産を所有していることが判明すると、二重ローンと判断されて審査に通りにくくなる可能性があります。 - ・売却が難しくなる
抵当権付きの不動産を購入するということは、何かのきっかけで不動産が差し押さえられてしまうリスクを抱えるということです。当然そんなリスクのある不動産を購入しようと考える人はめったにいないでしょう。そのため売却が困難になるのです。
- ・ローンの審査に通りにくくなる
このような不具合に遭遇しないためにも、ローンを完済したら速やかに抵当権の抹消手続きを行うことが大切です。
抵当権がついたままで土地を売却するには
売却金を使ってもローンが完済できない場合は抵当権が付いたまま売却することになります。通常、抵当権がついたままの不動産を購入したいと考える人はいません。それはもし前の持ち主が住宅ローンの返済不能に陥ってしまった場合、購入した不動産が差し押さえられてしまう危険があるためです。しかし任意売却であれば抵当権付きの不動産も売却は可能です。
そもそも債権者は競売よりも任意売却を望みます。なぜなら競売よりも任意売却の方が高値で売却できるため、売却金による残債の回収額が多くなるからです。ただし任意売却の場合はすべての抵当権が抹消されなければ取引は成立しません。もし対象の不動産に複数の抵当権が付与されていた場合、すべての債権者が抵当権の抹消に合意する必要があります。
売却金による返済は抵当権第一順位の債権者から優先的に受けられます。売却金によって全債権者の残債が返済できれば問題はありませんが、なかなかそううまくはいきません。
それでも任意売却を成立させるために、第一順位の債権者は第二順位以下の債権者に対して抵当権を抹消してくれるよう依頼します。その際に支払うのが抵当権抹消の承諾料です。その承諾料の金額に決まりはなく、第一順位の債権者や第二順位以下の債権者との交渉次第で変わります。
ただし競売になった場合、最悪第二順位以下の債権者には1円も返済されません。そのため承諾料の多少にかかわらず、また抵当権の順位にかかわらず債権者にとっては任意売却の方が望ましいのです。
債権者が任意売却を承諾するのはなぜ?
債権者が任意売却を承諾する理由は次の2点です。
- 1. 任意売却の方が競売よりも高値で売却できるため、回収できる金額が大きくなる
- 2. 任意売却の方が競売よりも早く残債を回収することができる
債権者にとっては競売よりも任意売却の方がメリットが多いため、任意売却を承諾するのです。
まとめ
不動産の売却方法には競売と任意売却があり、任意売却の方が債務者・債権者双方にとってメリットが大きくなります。また建物だけでなく、土地であっても任意売却は可能です。売却後もローン残債があり、抵当権が残ってしまう土地であっても売却は可能なので、まずは不動産会社や専門家に相談してみましょう。