親の不動産を、子供が親の代わりに売却する場合、当然ながら売却したお金は、親のものになります。子供は、親の代理人として不動産を売却する形になります。親名義の不動産を売却する際の税金や手続きは、親の意思が確認できる状態かどうかで大きく異なります。売却者である親が、売却意思を伝えられる状況にある場合、意思が伝えられない状況、それぞれについて、どういった手続きや税金が必要になるのか解説します。
親が売却の意思を伝えられる場合
親子であっても、親名義の不動産を子供が勝手に売却することは許されません。親が売却の意思を持っているものの、不動産がある場所が自宅からは遠い所にある、交渉や手続きをおこなう時間や体力がない、といった様々な理由で子供に手続きを依頼した場合に、子供が親の不動産を売却できます。
親は「任意代理人」として子供を任命
親が子供に不動産の売却を依頼するには、自分の任意で選んだ代理人という意味で、子供を「任意代理人」にします。任意代理人は、不動産保有者の代理として、売買の局面である程度の判断をする権限を持ちます。「使者」と「代理人」の違いは、この与えられている権限の範囲の違いです。
「使者」であれば、不動産の名義人である親の売却の意思を、名義人である親が選んだ不動産業者や買い手候補などに伝えることが仕事になります。相手が言うことを、そのまま不動産保有者の親に伝え、親の言うことをまた、相手に伝えるという、メッセンジャーとしての役割を担います。
一方、代理人であれば、与えられている権限の範囲内で、不動産業者を決めたり、買い手との間で価格や売却条件などを話し合ったりすることができます。売買決定についても、条件が折り合えば決定する権限も与えられていれば、決めることもできるかもしれません。ただし、親子とはいえ、認識の違いはあるものです。売却に関わる内容は、細かい所まで話し合って、意識を共有しておく必要があります。
①どこまで代理人が決められるか
価格や売却条件など、どこまでなら代理人が決められて、どこからは売却者である親に確認する必要があるかを、決めておきましょう。
②代理人が決められる内容
認識の誤差を招かないために、「価格の幅」、「支払方法」、「引き渡し条件」などを、書面にしておくといいかもしれません。
委任状の作成
親が子供を「任意代理人」に任命したことを、第三者にもわかってもらうために、委任状を作成する必要があります。買主や不動産会社は、名義人ではない子供が売却交渉に出てくる権限を持っているかどうか知る必要があります。あってはならないことですが、売却者の名義を騙って、不動産を勝手に売ろうとする不動産詐欺も横行していますから、正式に確認できる委任状を作成しておくことは、売却者や代理人を守るだけでなく、第三者となる不動産会社などを守ることにもなります。
委任状は、「○○の不動産を売却する手続きを△△に委任する」といった漠然とした表現だけではなく、具体的な内容も記載するようにしましょう。どういった権限を付与するのか、売却金額はいくら以上で、売却に関する条件はこういった形など、委任する内容を具体的に記載しておくと、トラブルを減らすことができます。
委任状には、親の押印が必要です。不動産売却に当たっては、名義人の実印、名義人の印鑑証明が必要になりますから、委任状の押印にも実印を使いましょう。また、売却時には不動産名義人の身分証明書や住民票も必要となります。委任状と合わせて、名義人である親と委任されている子供の住民票なども用意しておくとスムーズになります。
名義人本人の売却意思確認
売却に関する作業がうまくいき、買い手が見つかり、売却条件に関しても、双方が合意に至ったとします。その時点で、不動産の名義人である親自身の売却意思の確認がおこなわれます。委任状があったとしても、それが偽造でないかどうかわかりません。親の不動産を子供の名前を騙って売却しようとする詐欺かもしれません。そのため、売却の契約を結ぶ前に、必ず、名義人本人の意思確認が行われます。この意思確認は、不動産業者や契約書を作成する司法書士、又は買主がおこないます。
認知症などで親が意思を表明できない場合
上記のように、親の不動産を子供が代理人として売却する場合、不動産名義人である親の売却意思確認が必要となりますが、売却の意思を持っていたとしても、親がその意思を表明できない場合があります。
親が認知症になってしまい、施設に入所するにあたってまとまったお金が必要になった、そのために親名義の家を売って費用を賄いたい、という状況は、ままあることかもしれません。親が脳梗塞で倒れて、入院リハビリ治療に費用がかかるため、温泉地にある別荘を売って治療費用に充てたい、ただし、親は言語中枢がマヒしていて、意思を表明できない、といったこともあるでしょう。どちらにしても、親名義の不動産を売却した代金は親のために使われるわけですが、それでも、子供が親の不動産を勝手には売却することは許されていません。
意思能力があるかどうかの確認
意思決定が全くできない状況であることがはっきりしていない状況もありえます。売却意思確認時に、自分の身分をはっきり言えて、売却意思を相手に伝えられる状況であれば大丈夫なわけですが、日によって状況が違う、不安があるという場合には、医師に診断してもらって、診断書をとっておきましょう。大丈夫な状況であれば、上記の「任意代理人」として売却を進めることができます。
「成年後見人」の選任
名義人である親に意思能力がない場合、「成年後見制度」を利用します。この制度は、認知症や知的障害、精神障害などで判断能力を欠く人が、詐欺などの被害に遭うことがないよう、援助者となる後見人をつけて、法律的なサポートをおこなうためのものです。
成年後見制度の申し立ては、家庭裁判所におこないます。申し立ては、本人と配偶者や4親等以内の親族以外に、市区町村長や検察官などもおこなえます。もし、将来について不安がある場合、判断能力があるうちに、自分の後見人になってほしい人を選び、「任意後見契約」を結んで、公正証書を作成しておくこともできます。
本人の意思能力がすでにない場合は、家庭裁判所に「成年後見人」の申し立てをおこないますが、家庭裁判所は、その候補者が適任かどうか審理をおこないます。申し立てに記載されている子供や親族が選ばれることもありますが、家庭裁判所の判断によっては、候補者以外の弁護士や社会福祉士といった専門職の個人や法人が選ばれることもあります。また、子供や親族が選ばれても、「後見監督人」がつけられることもあります。
「成年後見人」として、不動産の売却などの職務を行った場合、職務の内容を随時、あるいは定期的に家庭裁判所に報告しなくてはなりません。
また、成年後見人の職務には、被後見人がなくなった際の財産の引き渡しも入っています。子供や配偶者が成年後見人となっている場合、相続時には「利益相反」が起きてしまうため、どちらかの立場を放棄する必要があります。
不動産売却の流れ
成年後見人が選ばれたら、親名義の不動産を売却することが可能になります。ただし、子供が成年後見人に選ばれていない場合、成年後見人が、売却が必要であると判断することになります。
名義人に代わって、成年後見人が買主と売買契約を結びます。その後、売却資金の使い道などを記載して、家庭裁判所の許可を得ます。家庭裁判所の許可が得られたら、売買代金の清算や登記の移転などがおこなわれ、売却が終了します。