憧れのマイホームを、住宅ローンを組んで手に入れた方は多いでしょう。住宅ローンを組んだときは返済可能と思っていても、長い返済期間の中でライフスタイルが一変してしまい返済が困難になることは誰にでも起こり得ることです。1、2か月の間に生活の立て直しが可能ならばあまり影響はないかもしれません。しかし思った以上に立て直しに時間がかかり住宅ローンの返済が滞った場合、債権者である金融機関は未払い分のローンを一括で回収しようとします。
通常、そうなった場合は競売よりも任意売却を選択した方がお得です。「任意売却しようと思っていたのに競売になって損をしてしまった」ということがないように、両者の違いについて把握しましょう。
競売と任意売却の違い
住宅ローンを組む際、金融機関は貸したお金を回収できなくなるリスクを減らすために住宅に抵当権を付けます。もし住宅ローンが払えなくなった場合は、金融機関が住宅を売却して残りの金額を回収する法的権利があるのです。このように抵当権の行使により住宅を売却することを「競売」と言います。金融機関が裁判所に競売の申立てを行うと、住宅は競売にかけられてしまうでしょう。また国が行う売却のため、手続きが厳格で時間がかかります。金融機関が申立てを行ってから、実際に競売にかけられるまでは最低でも半年以上はかかるようになっているのです。
多くの競売は、入札方式となっており、最も入札額を高くつけた人が落札できます。たとえ入札額が希望よりかなり低かったとしてもその金額で売却し、決められた期日までに退去するしかありません。競売は、ルールに則り粛々と進められて、希望額や退去の時期など全く話し合う余地がないのです。
競売以外にも、残債回収する方法があります。それは「任意売却」です。
債権者の金融機関が手続きするのではなく、債務者が債権者の同意のもと住宅を売却して残債を返済します。任意売却は、国のルールではなく通常の売買と同じように不動産屋などを介して進められるため、希望売却価格や、退去時期などもある程度調整が可能です。
競売との大きな違いは、希望価格で売却できる可能性があるということです。
競売では市場価格の6割から7割のスタートとなることが多く、希望よりも低い価格で落札されてしまうことが多々あります。しかし任意売却は、買い手と売り手の利害関係が一致していればどんな金額で売却しても構わないません。購入してもらうことが大事なので、あまりに高値では売却自体ができない可能性が高いですが、それでも競売よりも高い金額が付けられることが多いようです。
また、競売では売却価格は全て返済に充てられます。しかし任意売却の場合、金融機関などとの話し合いによっては、売却価格の中から引っ越し代などの捻出も可能になってくるかもしれません。ルールに則った競売よりも任意売却は自由度が高いため、売却価格の使い道をある程度選択することができるのです。買い手を選ぶこともできるため、例えば家族に売却し賃貸で借り受けをしてそのまま住み続けるといったこともできます。ここで挙げた例はあくまで可能性ですが、そういった話し合いの余地が残されていることが任意売却のメリットと言えるでしょう。
また、プライバシーの問題も任意売却と競売では違いがあります。競売にかけられるとインターネット上に物件情報が掲載されますし、建物の外観だけでなく内部の写真も公開されることになるのです。そうなると近所の人にも競売にかけられたことがバレてしまう恐れもあります。競売の場合売却までにかなり時間もかかり、その間はその土地に住み続けることになるのですから、周囲にはあまりバレたくはないでしょう。
任意売却は、通常の売却と変わらない手続きで進められるため、周囲にバレてしまうといった心配が少ないことも大きなメリットです。「そういえばあの家いつの間にか引っ越したのね」とほとんど気づかれずに済む場合も多いです。競売は強制的に売却されてしまいますが、任意売却はある程度自分の意思を入れることができます。どうしても住宅ローンの返済ができない場合は、まず任意売却することを検討してみましょう。
住宅ローンの滞納がどれくらいで競売開始される?
ところで、住宅ローンの返済がどのくらい滞納すると競売が開始されるのでしょうか。まず一度滞納したからといって、いきなり競売にかけられたりすることはありません。住宅ローンを滞納して3ヶ月くらいそのまま放置していると、金融機関からはがきや書面で「住宅ローンの返済が滞っていますよ」という督促が来ます。それすらも無視して滞納が続いている場合は、債権が債権回収会社に移行されるのです。
そして債権回収会社はローンの全額一括返済を求めてきます。通常、滞納しているということは一括返済できる能力がありません。一括返済できないのであれば、任意売却による一括返済を検討しましょう。しかしそれもせず債権者からの通知に対して何もアクションを起こさないと 、債権回収会社は裁判所に住宅の差し押さえを求め、競売の申し立ての手続きをすることになります。ここまでの期間は滞納し始めてから大体6ヶ月くらいとなっていることが一般的です。
申請された競売について裁判所が承認すると、今度は滞納者に対し裁判所から「競売開始決定通知 」を送られます。その通知には、住宅が競売にかけられたため、裁判所によって差し押さえられましたという旨の記載がされています。この段階で、住宅の情報も競売に向けて一般公開されることになるのです。
競売にかけられた家は安く手に入れるチャンスであるため、常時不動産業者が競売物件のチェックをしています。ご近所にも話を聞くことがあるため、この時点でご近所にバレてしまうことが多いようです。
そして8ヶ月くらいすると、家の中などの状態を調査をするために執行官が裁判所から住宅にやってくるでしょう。この調査が終わると競売にかけられてしまします。
競売が開始されると任意売却できなくなる?
競売は法律に則った手続きのため、一旦決定されてしまうと粛々と進められていってしまいます。
そのため、競売開始決定通知が来た時点で、任意競売に変更することはかなり難しくなるでしょう。
ただし競売が開始される前日までは、競売の申し立てを取り下げることは可能です。競売の申立ての取り下げは、債権者にしてもらわなくてはなりません。しかしこの時点まで何も対策を講じなかった債務者への信用はほとんどないため、申立て取り下げに応じないという債権者も多いです。そのため、取り下げは簡単ではないと思ってください。
債権者にとって、このまま競売にかけるより任意売却をした方が早く効率的であるというメリットを理論的に説明して納得してもらう必要があります。それでもやはり競売の方が早く解決しそうだと判断されてしまうと、競売の申し立ては取り下げてはもらえません。仮に任意売却してもいいですよ、と承認してくれたとしても競売の申立てはそのまま取り下げないケースもあります。
任意売却がうまくいかなかった場合に、また競売の申し立てをしていてはかなり時間がかかってしまいます。債権者側としては早くかつ効率よく回収したいため、任意売却の目途がつくまでは、できるだけ競売もそのまま平行で行いより良い条件で回収できるように様子見するのです。こうなると競売が決まるまでに急いで任意売却をしなければならなくなるため、希望の売却価格ではなかなか買い手が見つからなくなってきます。
このように、一度競売開始が決定されてしまうと任意売却もかなり不利になってきてしまいます。
そのため、競売開始決定通知が送られてくる前に、任意売却の手続きを進めるのが一番良いです。住宅ローンの滞納に関して金融機関からお知らせが届いたら、放置せずに今後の対応について債権者に相談しましょう。