私が昨年の4月に賃貸マンションを退去する時に起こったお話をさせていただきます。
一歩間違えれば高額な修繕費用を支払っていた可能性があるので、皆さんの参考にしてもらえればと思います。
また自分の経験をもとに、弁護士さんにも相談をしてみました。
やはり「高額な修繕費用を支払うかどうか」は紙一重だと感じたので、こちらも参考にしてください。
※この記事は支払うべきものを踏み倒すための記事ではなく、支払うべきものを正確に見積もる際に役立てばと思っております。
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退去時の立会いに必要な「準備物」と言われたもの
新築マンションの購入に伴い、退去の連絡をするために管理会社に電話をさせていただきました。
契約書を見ると「6か月前までに申告」ということでしたので、6か月前に申告をしました。
住んでいたマンションの管理会社さんはとても対応がよく、駐車場を借りる時や、共用部分の電気が切れている時などとても親切に対応していただいていたので、退去の連絡の際も気持ちよく対応いただけました。
そして退去の際の立会いは管理会社ではなく、立会い専門の業者さんが当日担当するという旨の連絡をもらいました。
その立会い業者専門の業者さんからは退去の1か月前くらいから日程の調整をしていました。
電話の対応は悪くはなく何の問題もありませんでしたし、日程の変更などの調整もスムーズに行ってくれました。
当日、立会する時の持ち物として
- 入居時した時の契約書
- 印鑑
をお持ちください。とのことでしたので、準備をしていました。
立会い時に一番初めに言われたこと
当日、すべての荷物を引き上げ(引っ越し、粗大ゴミとして出す等)が終わり
立会い業者さんが来られました。
一通り挨拶など済ませて開口一番に言われたのが
「では、契約書だけお預かりしておきますね~」
という一言でした。
とてもシンプルな言い方というか業務的な言い方でしたので
私自身も「渡すものだ」と思っており、カバンの中から契約書を取り出そうと思いました。
しかし探しても見つからず、結局仕事のデスクの上に置きっぱなしだったのです。
「すみません、契約書を忘れたみたいです。。。」
「はい、わかりました。では一旦、部屋の状況を確認しますね~」
と特に怒られることなく、部屋を確認していきました。
すべてのチェックを終わり見積書にサインを求められた
その賃貸物件には約5年住んでおり、それなりに汚れていました。
洗濯機の後ろ、風呂場、トイレ、壁紙など、5年も住んでいると汚れてくるものです。
一通り、チェックが終わると
「けっこう汚れているので、のちほど専門の業者を入れて見積もりを出したいと思います。」
ということを言われました。
僕も汚れていることは理解していたので、支払うべきものは支払うつもりでした。
そのマンションで二人の子宝にも恵まれ、狭いながらに良い思い出がたくさんできていましたから、気持ちよく退去するつもりでした。
そして1か所ずつどこが汚れているという説明を受けた後に
「あとから専門業者に見積もりをだすので、とりあえずここにサインと印鑑だけ押しておいてもらってもいいですか?」と言われました。
私は「立会いが完了したよ」的なサインかなと思って見てみると
「見積書」と書かれた複写式の見積書でした。
サインする箇所には
「私は修繕費として上記金額を支払うことに同意致します。」
という文言が書かれていたのです。※
※写真などないので文言はうる覚えですが、こんなことを書いていました。
とりあえず「やってはいけない!!」と感じたこと
ここでめっちゃくちゃ嫌な予感がしたんです。
契約書を先に引き取ろうとしたり、何も金額が書かれていない見積書にサインと印鑑を押させようとしたり。。。
なので
「さすがにここにはサインできないので金額が分かってからのサインで良いでしょうか?」
と聞いたところ
「そうなると後日、またサインをしてもらいに事務所に来ていただくことになりますので、ちょっとお手間も取らせますし、サインだけで結構ですので。。」
という返答がありました。
ますます怪しくなってきたので
「分かりました。では金額が分かりましたら見積書をご郵送いただければ確認してサインと印鑑を押します。」
と答えました。
「また先に契約書を取ろうとしたり、金額の書かれていない見積書にサインをさせようとすることに対して少し疑問に思いましたので、一度見積金額に関しては弁護士に相談だけさせていただければと思います。」
と言って、指摘された箇所を全てスマホで撮影していきました。
撮影が終わった後に
「5年近く住んでおりましたので、支払うべき箇所はしっかりと支払わせていただきますが、写真内容とお見積りいただいた金額を弁護士に確認してもらいますので、見積書ができましたらご郵送ください」
と伝えました。
文章にするときつい言い方になりますが、争う姿勢などを見せて後でややこしいことになっても嫌でしたので、あくまでも冷静に伝えました。
後日、修繕費についての電話があった
その後、1か月くらい見積書の郵送や、電話などなかったのですが
2か月後くらいに電話がかかってきました。
「今回汚れていた箇所などを見積もりさせていただきましたが、リフォーム代金などの修繕費はお支払いいただかなくてけっこうです。」
という返答を受けました。
もちろん、契約書を渡して、見積書にサインをしていたとしても代金はかからなかったかもしれません。
しかし立会いの時は
「金額の詳細は分かりませんが、過去の事例から見てもけっこう高額になってしまうのと、見積もりにお時間がかかりそうです。」
というような発言もあったので、契約書を渡して見積書にサインをしていれば高額な請求が来てもおかしくなかったのかなと思いました。
こういう経験をして体験談を書かせていただく機会をいただきましたので、弁護士さんに「ほんとのところどうなの?」と思っているところを聞いてみました。
弁護士に聞いた!退去時に知っておくとよいこと
今回、取材に応じていただいた弁護士さんは
堀総合法律事務所の堀智弘先生です。
プロフィール
堀智弘弁護士
事務所名:堀総合法律事務所
所在地:大阪府大阪市中央区北浜2-1-2 昭和興産北浜ビル8階
電話番号:06-6229-5115
URL:https://horisogo.com/
どういう「汚れ」や「破損」を支払う必要があるの?
基本的には「通常の使用」で汚れてしまうものは、支払う必要がないものと理解してもらってもよいです。
「通常の使用」で汚れるものに関しては、通常は貸主側がそのことも加味して賃料を決定していると考えられるからです。
例えば「ポスターを張るために押しピンを利用した」というような壁紙の穴の修復については貸主(部屋を貸している人)の負担になります。
逆に、重たいものをかけるためにネジやクギなどを利用している場合で、壁紙に穴が開いているだけではなく下地ボードまで取り替えが必要な場合などは借主(部屋を借りている人)の負担になります。
ただ「通常の使用」が少しボヤっとしているのが事実です。
例えばカーペットに飲み物をこぼしてシミになった場合などは
「極力シミにならないように手入れ(キレイに拭いたり)した場合」は「通常の使用」になり貸主の負担になりますが、
「その飲み物を放置して極度のシミになったり、カビが生えてきた」などは借主の負担になります。
なんか色んな事例を聞きたいのですが。。。
もし具体的な事例を知りたいのであれば国土交通省から出ている「原状回復をめぐるガイドライン」というものがありますので、参考にされるのが良いかと思います。
このガイドラインの25ページ目に具体例が載っています。
参考:原状回復をめぐるガイドライン 平成23年8月 国土交通省住宅局
ケースバイケースにはなりますが、貸主と借主の約束の内容は契約書で比較的自由に決めることができますので、めっちゃキレイな状態であったとしても、契約書に書かれている以上は基本的には支払う必要がありそうですね。。
「通常の使用」で汚れた箇所も含めてなんでもかんでも借主の負担としていた契約書が裁判で無効とされた事例もあります。
今回の場合でも、不当に高額であったり、きちんと張り替えがされない場合などは、支払が不要になる可能性もありますね。
なお、実はこの賃貸マンションの退去に関するトラブルというのは弁護士のところにも相談が来づらい案件ではあります。
そもそも退去時の費用も数十万レベルのことが多いので、納得いかない場合でも「弁護士に相談するレベルではない」で終わってしまう場合が多いんですよね。。。
退去時に契約書を渡す必要はあるの?
まず契約書を渡す必要はありません。
ですので立会いの際に、契約書を引き取ろうということ自体が怪しいと言えば怪しいですね。
例えば契約書がないと裁判になった時に原本を差し替えて、ウソの契約内容を主張されても、文句を言いにくくなってしまいますので、裁判が不利になる可能性があります。
また修繕費用に納得がいかなくて、弁護士に相談した時も契約書がないと判断が難しいケースが出てきます。
ですので、契約書は立会い業者に渡すのではなく、ご自身で持っておかれることをオススメします。
立会い時に指摘箇所を撮影するのは効果的?
そうですね。絶対に撮影します。
私の場合は傷や汚れは細かく撮影するようにしていますが、
そこまでしなくても立会いの時に「ここに修繕費用がかかりそうです。」と言われたような指摘箇所は撮影しておきましょう。
裁判を起こすことはなかったとしても
「この汚れで、こんな金額がかかるの!」と疑問に思った時に聞くためです。
そうなんです。
ぼったくられそうになったときに反論する材料は残しておいて損はないですよね。
何も書かれていない見積書にサインって後から文句言える?
いえ、後から言い訳して争うのは大変なので、サインしなくて正解だったと思います。
空白であってもサインをしていれば、もし高額すぎる請求が来て裁判になった場合でも相当不利になっていた可能性があります。
というのも、「空白の見積もり書にサインさせられた」ということが明確に証明できる動画や録音があればいいのですが、普通はそんなものはありませんし、裁判所は書面を信用する傾向が強いので、動画や録音があっても不利になるかもしれません。
例えば「音声データの前後が消されている」と言われてしまう場合もありますし、貸主や業者側が「私の声ではない」などと言われてしまうと、音声鑑定などをしなければならなくなり、莫大な鑑定費用を支払うわけにもいかないので泣き寝入りしないといけない事態にもなり得ます。
確かに、もしサインをしてしまっていたらそういう方向性で進めることになると思います。
しかし、貸主が「この写真では撮影されていない別の箇所の汚れがひどくて。。。」などと言われてしまうと、その箇所の汚れがどの程度であったかを示す証拠がこちらの手元になければ相手の主張が不当であることの証拠がないことになります。
こうなってくると「サインが入った見積書」だけが唯一の手掛かりになってしまいます。
そうですね。
先ほど申し上げたとおり、裁判所は書面を信用する傾向が強いので、補修内容、金額、それを支払うことに同意する文言、直筆の署名、などがあれば裁判所としてはやはり見積書の方をまずは信用してしまうでしょうね。
それを覆すだけのストーリーと証拠があれば…ということになりますが、やはりまずは不利な立場に立たされることになるでしょうね。
そういう意味で何も書かれていない見積書にサインしなかったのは、本当に正解だったと思います。
敷金、礼金、初期費用など返ってくるべきお金は?
敷金とか礼金に絡めてだと
敷金というのは家賃滞納や修繕費用など、退去時に借主が貸主に対して支払うべきものが残っている場合の補填に利用するものなので、入居時に支払っていても退去時に何もなければ返ってくるものになります。
礼金というのは「入居させてくれてありがとう」というお金ですので、基本的には返ってきません。
よって「敷金が0円、礼金が10万円」なとであれば、入居時に交渉して「敷金10万円、礼金0円」ということにできないかという交渉をするのもありかもしれませんね。
ただこれは家主さんによって対応は異なると思いますので何とも言えませんが。。
契約書で気を付けておかなければならないことはある?
お金というよりも、入居時に契約内容をしっかりと見ておくのが大事だと思います。
- 退去時の修繕費用はどうなっているのか
- 退去時に連絡するのは退去の何か月前なのか
加えて、退去時のことを考えると入居時の写真を撮影しておくこともよいかもしれません。
もしそこで汚れや傷があれば写真で撮影しておきましょう。
そしてその写真だけを保存していても「いつ撮影したものか」が立証できませんので
- 業者に写真をメールで送って、「こういう傷があった」というやりとりをしておく
- 業者に立ち会ってもらって汚れがあった箇所のチェックシートを作り、互いに署名捺印する
などをして証拠として残しておくとよいでしょう。
これは最初から傷や汚れがあった場合だけですが、もし傷や汚れがあれば、やっておいた方がよいでしょう。
まとめ
国土交通省のガイドラインを見ている限り、長く住んでいると多少の修繕費用は借りた人も支払う必要があるかもしれません。
しかし立会いの際に「契約書を引き取り、空白の見積書にサイン」をさせる業者がいるということだけでも理解をしておいてください。
私自身も人生で複数回引っ越ししており、退去の際の心得などはある程度知っているつもりでした。
契約書を引き取ろうとしたり、空白の見積書にサインさせようとされたのは初めてでしたが、非常に自然な誘導だったので、まんまと引っかかりそうになりました。
また弁護士さんに聞いた内容を改めて見ていただければ
- 契約書を渡すこと
- 空白の見積書にサインすること
がどれだけ危険な行為なのか分かったと思います。
私自身はラッキーにも契約書を忘れ、土壇場で見積書へのサインはしなかったですが
ぜひ皆さんにも参考にしてもらえたらと思います。
支払うべき修繕費用は支払うべきですが、必要以上の修繕費用を支払うのはもったいないので参考にしていただければと思います。